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行きたくない気持ちにも寄り添って

 シュウくんは一年生。入所し1ヶ月たちます。  だけど、小学校に行き、学童に来て、おうちに帰るという生活リズムがなかなかしっくり来ていないようです。  お母さんも「学童に行きたくないと家で言うことがあって・・・」と困っていました。  ある日、小学校にお迎えに行くと、浮かない顔でシュウくんが呟きました。 「学童いきたくない」  何かイヤなことがあったわけではないようです。ただ、気が向きません。 それをシュウくんなりに言葉にしています。  これはチャンスと思いました。 「じゃあ、このままどっかに行っちゃおう!」  あさがお学童の前まで行き、ランドセルだけ置くと、同級生のミイちゃんも一緒に私たちは散歩に出かけました。  散歩の最中、シュウくんはよく笑いました。 「次こっちいこう!」 「ここのお店しってる」  いつもよりたくさん言葉が出てきます。  30分くらい歩くと、 「疲れた〜」 とシュウくん。 「もう歩けない〜」 とミイちゃん。  二人とも笑いながら言います。 「あさがおでお茶飲んで、ゆっくりする?」  と私が言うと 「うん!」  と二人はまた歩き出しました。  次の日、シュウくんはミイちゃんに 「今日もさんぽ行く?」  と話しかけました。  シュウくんから他の子に話しかける姿を、私はこの時にはじめて見たのでした。  そんな日が何日か続くうちに、いつの間にかシュウくんが「学童いきたくない」と言うことはなくなっていました。  シュウくんが欲しかったのは、[なにか楽しいことが起こるかも?]そんなワクワクだったのかもしれません。

話をききたくないことだってあるよね

 二年生のヤスくんは、友達とおいかけっこをして、くっつきあって遊ぶのが大好き。一方で、座って落ち着いてすごすのは苦手なようでした。  月に一回の避難訓練の日、地震がきたらどうするかを話ている時も、ヤスくんは落ち着きなく動き回っていました。  ある日、五年生のトモくんが「怖い話して!」と私に言ってきました。外階段の下で、怪談大会が始まります。  子どもたちが少しずつ「なにしてるのー?」とやってきて、10人くらいの輪になりました。その中にはヤスくんの姿もありました。  私は怖い話をするときに、できるだけ「次はどこの話が聞きたい?」と子どもたちに問いかけます。「がっこう!」「びょういん!」「こうえん!」「うみ!」子どもたちに舞台を決めてもらうのです。そしてその舞台に合った怪談を即興で話したり、すでに知っている話をしたり。こうすると子どもたちもただ聞くだけじゃなく、参加する形になります。どこが怖い話にふさわしいかを考えることで想像力・創造力も育まれたらいいと思っています。  ヤスくんも「つぎは、くるまのなか!」とリクエストをしています。なかなか楽しそうです。  私の手があいていそうなタイミングを見つけては怪談大会をひらくのがしばらくブームになりました。  その次の避難訓練の日、洪水が来たらどうするかを話している時、ヤスくんは私の一番近くに座り、最後まで話を聞いていました。ヤスくんは話を聞くのが苦手だと思っていました。でも苦手だったのは[自分には関係なさそうなつまらない話]だったのかもしれません。  そして避難訓練の話が終わると、「つぎは怖い話!」と私にリクエストするのでした。  

「もう一緒にあそばないっ!」

 三年生のアキちゃんは、同じ年のユメちゃんとマリちゃんといつも3人で遊んでいました。  ところがある日、アキちゃんが階段で座り込んでいました。声をかけると、悲しそうな顔でアキちゃんが言います。 「ユメとマリに、一緒にあそびたくないって言われた」  私は「それは寂しいね」と言い、二人で遊ぶユメちゃんとマリちゃんに話を聞いてみました。  ユメちゃんは「だってさあ、やなんだもん」と。マリちゃんは「やなこと言ってくるもんね」と。 「やなことなんて言ってない」とアキちゃん。「なんて?」と私。 「かわいくないって言った。キーホルダーとか、人形とか。いつもだもんね」「うん、そうそう」ユメちゃんとマリちゃんは、口を尖らせてそう言いました。 「だって・・・かわいくないと思ったんだもん」とアキちゃんは悲しそうな顔をしてうつむいてしまいました。  かわいい、うれしい、楽しい・・・子どもたちは共感して、心を通わせます。それはとっても大切なことです。一方で、自分の心のままに言葉を発することだって、素敵なことだと私は思います。どちらの言い分もよくわかる。 「そうか。ユメちゃんもマリちゃんも、自分がかわいいと思ったものを、かわいくないって言われてさみしかったんだ」 「そうそう」と二人。 「アキちゃんは、自分が思ったことを言っただけなのに、遊ばないって言われてさみしかったんだ」 「うん・・・」 「なるほど。わかった。三人とも、わかりやすい説明だったよ。ありがとう」 「え?おわり?」と三人。 「え?みんな自分の気持ちに正直で、いいことだなって思ったよ」と少しとぼけたように私は答えました。それぞれの気持ちは言葉にすることで理解できたように感じます。相手の気持ちを正しく理解すれば、子どもたちはそれぞれ自らの力で自らの方法で解決へとたどり着くことができると私は思います。 「ねえ、一緒に遊んでもいい?」アキちゃんは二人にたずねました。「かわいくないって言わない?」と二人。「もう言わないよ!」とアキちゃん。 「思ったら言ってもいいんじゃない?」と改めて言う私を尻目に、三人はいつものように遊び始めたのでした。  時として、子どもたちの価値観がぶつかる時があります。そういう時は、お互いの気持ちを言葉にするだけで、不思議と許し合えたりします。  大切なのは、遊びたいと思える相手がいること。遊びたいと思ってくれる相手

子育ての仲間を目指して

 エミちゃんのお母さんは、いつもお仕事が忙しそうでした。 「エミちゃん今日、公園で思いっきり鬼ごっこしてましたよ。私もすごく楽しかったです」  お母さんに学童でのエミちゃんの話をすると、すこし笑ってくれます。  本当は「お茶でも飲んで、少しゆっくりしていきますか?」と言いたいところですが、お家に帰って、ご飯の準備をして、エミちゃんを寝かせて・・・夜も忙しいのに、あまり引き止めるのも申し訳ないと思い、せめてできるだけ、学童でエミちゃんが楽しそうにすごしたことをお知らせできるように心がけました。  エミちゃん、6年生の3月。卒所式の場で、お母さんは話をしてくれました。 「私は仕事が忙しくて、なかなかエミとゆっくり話をする時間もとれませんでした。だけど、心配はしていませんでした。指導員の皆さんがいつも学童での様子を教えてくれていたからです。エミが楽しくすごせているのを聞くと、私も少しだけ元気になれました」  私たちはそれを聞いて涙が出ました。少しでも子育てを一緒にしている仲間になれていたのなら、こんなに嬉しいことはありません。  だから私たちはこれからも、お迎えに見えた保護者の方に、できる限り、少しずつではありますが、子どもたちの姿を伝え続けたいと思っています。

保護者同士のつながりの素敵

 ある日の懇談会、10人くらいの保護者の方と輪になって話していた時のこと。なにか困っていることがないかと言う話題になったら、2年生のマサくんのお母さんが教えてくれました。 「うちの子、落ち着きがなくて、家でずっと動き回っていて、このままで大丈夫なのか不安で・・・」  たしかに、マサくんは学童でも友達とおいかけっこをしたり、じゃれ合うように遊ぶのが大好きです。だけどそれを伝えたところでお母さんの不安が解消されるわけでもないしなあ、と考えていると、リョウくんのお母さんが笑って言いました。 「わかるー。うちの子も落ち着きがないってよく言われたよー。学童で思いっきり動き回って、もっと疲れて帰ってきてっていつも思ってたもん」  一同大笑い。マサくんのお母さんは「落ち着くものですかね?」とたずねます。 「落ち着かないよ。全然。だけど楽しそうだからいいか、と私が思えるようになったかな」リョウくんのお母さんはそう言ってまた笑いました。 「うちもそうだよー」「うちの子はもう少し元気に遊んでほしいと思うなー」他のお母さんも楽しそうです。  懇談会の最後、マサくんのお母さんが「皆んな同じような悩みをもってることがわかって、楽になりました」と話してくれました。  保護者同士だからこそ、話せることや共感できることがあります。私たち指導員が話す隙が全然ないような懇談会も、大好きです。(笑)

「今日めっちゃ楽しかった!」

 あさがお学童には、その子がやりたいことにとことん付き合う日があります。[ショウタの日][ユウミの日]と言った具合です。どの子にもスポットライトが当たる生活を目指して生まれた取り組みです。  どんなものか、いくつか紹介します。 [ヨシオの日]  ヨシオくんは、テレビで観たハンターから芸能人の皆さんが逃げる番組が、とっても好きでした。 「おれの日、アレやりたい!」  私は一緒に100円均一に行って、サングラスを購入します。ヨシオくんもハンターをするのかと思っていたら、違いました。 「指導員がハンターやってね」  私は覚悟を決めました。ヨシオくんのイメージに応えるには、無表情で、無尽蔵のスタミナを持つハンターになりきらなくてはなりません。いつもの公園の鬼ごっこのように「ちょっと疲れたから休ませて〜」なんて言ってはならないのです。  当日、公園で[ヨシオの日]は開催されました。20人くらいの子どもたちが参加して、地域の子も「いれてー」と入ってきました。ヨシオくんと一緒に考えたミッションもあって、大盛り上がり。途中で体力の限界が来た私の代わりに「しょうがないなー」と6年生のオサムくんたちがハンターをやってくれました。本当ありがとう。  公園からの帰り道、「今日すっごい楽しかった!」とヨシオくんは笑いました。「おれも!ヨシオありがとう!」ハンター役を買って出てくれたオサムくんたちも言いました。 「でも、指導員はもう少し体力をつけたほうがいいわ!」  夕焼けに照らされたヨシオくんたちの笑顔が、目に沁みました。 [ケイの日]  ケイちゃんは、普段のんびり本を読んでいることが多い子でした。やりたいことを自分からは言い出しにくいかも、と思い、私は声をかけました。 「ケイちゃんの日やろうよ。やりたいこととかある?」「えー、うちの日ー?」  編み物とか、お絵描き大会とか、私はいくつかの選択肢も準備していました。でもケイちゃんは、ニヤッと笑って答えました。 「おっきいゼリーがつくりたい」  今までにない、それでいてとても楽しそうなアイデアでした。  すぐに私とケイちゃんは、ゼラチンとジュース、そしてバケツを買いに行きました。  キレイに洗ったバケツにゼラチンを溶かしたジュースを流し込んでいると、なんだなんだと他の子達も近づいてきます。「これ、誰の日?」「ケイちゃんかー」「いいなー、私の日も

「ねえ、きいてよ!」

「ねー!今日やなことがあったー!」  6年生のサラちゃんが勢いよく事務室にやってきました。いつもは年下の子たちに囲まれて、オンブをしたり、トランプをしたり。サラちゃんは皆のお姉ちゃん的存在です。 「漢字のテストでさー、漢字は書けてたのに、送りがな書き忘れてさー」うんうん。 「隣の席のタカジって子がいてさー」うんうん。 「いつもはウチのほうが点数高いのに、そのせいで負けたんだってー」ありゃりゃ。 「あ、明日お母さん誕生日でさー」それはおめでたいね。 「この前部活の試合でさー」ほうほう。  いつの間にか、[今日あったやなこと]というテーマは終わっているようです。 「あー!サラちゃん!ここにいたのー!」「あそぼーよー!」年下のルミちゃんたちがサラちゃんを見つけて、やってきました。 「ああ、ちょっと待って。今大事な話してるから」サラちゃんは言いました。「えぇー・・・」ルミちゃんたちは引き上げていきます。 「でさー」サラちゃんはとりとめのない話を続けます。  普段、年下の子達と遊ぶのがイヤなわけではないはずです。ただ、こうやってゆっくり話したい日もあるんだよね。  サラちゃんは、気が済むまで事務室で話をすると、「そろそろあそんであげなきゃー」と立ち上がりました。 「また来てねー」と私が言うと、「はーい」とサラちゃんは事務室を後にしました。  相談でも、グチでも、世間話でも、休憩でも、子どもたちが「きいてよー!」と言える存在でありたいです。